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川越簡易裁判所 昭和32年(ろ)97号 判決 1958年7月17日

被告人 星野正行

主文

被告人を罰金壱万五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中証人新井熙同田中一郎及び同柳井十に支給した分は各その二分の一、証人星野昌三同大野正吉及び鑑定人大久保柔彦に支給した分は全部被告人の負担とする。

理由

被告人は川越市所在有限会社星野清次郎商店に雇われ昭和三十二年一月二十八日自動車運転免許をとつてからは同会社の小型貨物自動車を運転し商品の配達等の仕事に従事していたものであるが、同年四月二十日午前八時三十八分頃同会社の小型貨物自動車埼四す二一五七号を運転して埼玉県入間郡福岡村の同会社の車庫を出発し志木川越間県道上を進行し川越市大字大中居前六一番地先の本件事故現場の約四百米手前から先行の田中一郎運転の大型バスと十米乃至十五米の間隔を保ち時速三十五粁乃至四十粁で進行をつづけたが右県道は幅員六・五米非舗装の道路で現場約百五十米手前からその左端には側溝からさらい上げた土が幅一米乃至一・三米高さ十糎位盛り上げてあつたので先行の前示バスの運転者はこの盛土をさけ道路中心線より〇・五米余右側に寄りこの盛土の部分一・三米を除いた有効幅員五・二米の中心線すれすれに進行し被告人はこのバスの上げる土ほこりを浴びながらこれに続行し同日午前八時四十五分頃前示事故現場にさしかかつたのであるが、斯る場合被告人は自動車運転者として対向の自動車が右バスとすれ違つた直後道路中央寄に出て来るかも知れないのでこれとの衝突を避け得るよう適宜減速して前示バスとの間隔を十分にとりかつ被告人運転の前示自動車は幅一・四七米の小型車なので道路中心線の右側に出なくても十分進行し得たのであるから道路左側をできる限り左に寄つて進行し対向車との衝突を未然に防止すべき業務上の注意義務があつたのにかかわらず被告人はこれを怠り単に事故現場数十米手前で前照灯のスモールを点けただけで前示バスとの間隔を顧慮せずほぼ同一間隔同一速度で進行をつづけしかも衝突寸前右バスの土ほこりを避けるため把手を右に切り前示有効幅員の中心線よりさらに若干右側に出たところたまたま対向の萩原一雄運転の小型乗用自動車五き五一二〇号が右バスとすれ違つた直後把手を僅かに道路中央寄に切り(但し前示有効幅員の中心線を越えてはいない)時速三十五粁乃至四十粁位で進来するのを七、八米前方に発見したので被告人は驚いて直ちに把手を左に切つて避けようとしたが及ばずこれと正面衝突(双方の自動車の前面右半分の部分が衝突)し因つて相手方自動車の乗客榎本チヨに対し治療約四ヵ月を要する右尺骨々折等、同井上ます子に対し治療約二ヵ月を要する顔面切創等、同柳井十に対し治療約三ヵ月を要する左腓骨々折等、同塩野肇子に対し治療約二週間を要する頭部打撲傷等、同野崎トミエに対し治療約一ヵ月を要する頭部打撲傷(骨折)、運転者萩原一雄に対し治療一ヵ月を要する胸部打撲傷等、自車の同乗者星野幸次に対し治療十日を要する顔面挫創、をそれぞれ負わせたものである。

(証拠略)

法律に照すと被告人の判示所為は刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第二条第三条に該当し一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第一項前段第十条により犯情の最も重い榎本チヨに対する罪の刑をもつて処断することにしその所定刑中罰金刑を選択し所定金額の範囲内において被告人を罰金一万五千円に処し右罰金完納不能の場合は同法第十八条により五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従いその一部を被告人に負担させるものとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判官 土方一義)

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